30年守り続けているシェフの誇り(リリエンベルグ)

リリエンベルグ・横溝シェフ
【リリエンベルグ】とはドイツ語で『百合の丘』という意味。

1988年に新百合ヶ丘にお店をオープンして30年。

職人としても経営者としてもいろいろな壁があったと思います。

どうやって乗り越えてきたのでしょう。

かわさきマイスターでもあるリリエンベルグ・横溝シェフへの”Challenge”インタビューです。

 

 

 

〇お菓子職人の道に入って良かったなと思うことはなんでしょう。

食べることが好きですし、好きな食に関わることを仕事にして、それでお客様から「ありがとう」って感謝の言葉を頂ける。

どんな仕事でも世の中のためになっているはずですけど、直接、最終ユーザーの方から「ありがとう」っていう言葉はなかなか聞けないですよね。

特にこのケーキづくりの仕事をして良かったと思うのは、自分で考えて自分のお菓子を創り出せること。創造力を発揮できるところです。

そういう仕事って楽しいですし、何年やっても飽きることがないです。

この年になってくると感覚的に今の若い人たちとずれてくる可能性があるんですけど、そこは自分の頭をもうちょっと柔らかくして、若い人たちの力を引き上げたり、逆にそういう人たちから学ぼうという気持ちがあれば、70でも80でも勉強にもなります。

 

〇若い人たちに伝えたいことはどんなことでしょう。

やらされているっていう意識を持っていたら仕事ってつまらないですよね。

仕事ってやっぱりお金をもらうために働かざるを得ないでしょ。

その働く時間は楽しく仕事をしたら人生が楽しいですよね。

ケーキの一つ一つの先に食べる人の笑顔が待っているわけですから、その仕事に誇りを感じてやり続ければ『これが私の天職だ』って思うようになります。

それはケーキだけじゃなく、どんな仕事でも一生懸命にやればその仕事が好きになるし、感謝の笑顔が出てきます。

そこに肝を据えてやり続げれば『天職になり得る』と思うんですよね。

 

〇リリエンベルグの皆さんは本当に楽しそうにお仕事をなさっていますね。

『後工程はお客様』っていう教えがありますけど、製造の人は販売員に渡しているんじゃなくてお客様に渡しているんです。

ですから製造が渡したケーキを販売員の人が「このケーキは売りたくないな」と思ったら、それはお客様が「買いたくない」ということだと思うんです。

「ちょっと焦げちゃったけど、これ買ってよ」ってお客様には言えないですよね。

だから、私たちは常にお客様に渡しているっていう気持ちを持って作っています。

自分で食べたくないもの、買いたくないものは、売りたくない。自分たちの好きなものをお客様に買っていただく。

それに「美味しい。ありがとう」ってお客様から言っていただけることが大きな仕事の励み、プライドになると思うんです。

お菓子というのは、赤ちゃんが生まれて、誕生日、入園、ピアノの発表会、そして結婚と、家族と人生の節目節目のお祝いごとに私たちが陰で協力できる食べ物です。

『 一つ一つ心を込めてお作り致しました。 皆様の大切な日々にお役に立てるこの仕事を私達は誇りに思います。 』

これはリリエンベルグができたときに夫婦で話し合って作ったしおりのメッセージですが、その気持ちはずっと守り続けています。

 

〇修業時代はご苦労も多かったと聞きました。

高校を卒業して、最初、神田のエス・ワイルというお店で約5年半修行しました。

普通はだいたい3年ぐらいでみんな辞めていくんですが、私の場合は高卒で入ったので少しいる期間が長いんです。

それで少し上の立場になった時に、後輩を叱ったんです。

でも言い方が少しきつかったみたいで、辞めていった先輩が遊びに来た時に「叱るのはいいけれども、どの子にも我慢の限界というものがある。それを超すような叱り方は、そいつをダメにしちゃう。我慢の限界は人それぞれ違うんだから気をつけな」って説教をされたんですね。

そして23の時に、ヨーロッパに修行に出て、ベルリンのホテルでまたゼロからのスタートです。

そこでは最初、言葉の壁もあってちょっとした誤解から『クビになっちゃうかな』っていうぐらいにミスが多かったんです。

エス・ワイルで後輩がそういうことをしたら、恐らく、私はガンガン言っちゃってたと思うんです。

ところがそのベルリンのホテルの責任者は「横溝。ミスが多いみたいだけどどうしたんだ。明日はお前と一緒に仕事をしよう」って言ってくれたんです。

普段はネクタイをしているパティシエの製造のシェフなんですが、次の日はネクタイを外して朝から「そこは違う。そこはこうだ」って一日中ずっとつきっきりで見てくれて、それでミスのもともとの原因が発見できたんです。

その翌日からはミスもなく穏やかに仕事ができるようになりました。

そのときに思いましたね。

『日本に帰ったら自分もこういう親方になろう』って。

結局、若い者が失敗するのは、その上の者の責任だっていうことですね。

「君が失敗しているっていうのは、僕が失敗しているっていうのと同じなんだよ」って。

それがとても頭に残っています。

あのホテルでは、レシピがどうこうというよりも、人との接し方、生き方っていうものを教わったことが大きなことですね。

失敗というのはやればやるほどするものであって、失敗することは覚えるということにも繋がります。

だからリリエンベルグでも「失敗は全然恐れることはないんだ」と話しています。

 

〇経営者として壁に当たることもあったんじゃないでしょうか。

お店を開いていると、いろんな壁にぶつかるけど、その壁っていうのは自分一人だけで乗り越えているんじゃないんですね。

夫婦であったり一緒に働いている仲間だとか、人生でお付き合いしていただいた先輩とかに支えられて乗り越えてきたんです。

だから自分が安定してうまくできてきたら、今度は、うちを辞めていった子とかが困った時には積極的に手を差し伸べる。

ただレシピを写したからってお店って成功するものじゃないですからね。

私は経営者じゃないんで、支店を出そうとかデパートに出店するとか、事業をしようという気は全くないんです。

ここに来るお客さんだけを相手にしていくつもりで、マイペースでやってきています。

お店を開いて30年続いているのはホントの何パーセントとかよく言いますけど、それが続いている理由だと思います。

リリエンベルグは年間で92日店舗休業しているんですが、それは恐らく日本一だと思いますね。

経営者だったらこんなことしないと思いますよ。

従業員も105日はしっかり休みを取るようにしています。

それはうちの奥さんから「従業員が辞めていくときに一言『ここで働けて良かった』って言ってもらえるような人の使い方をして下さい」って言われてね。

だから目標っていうのは売上とか利益じゃなくって、働いている人たちの気持ちの満足度ですね。

 

〇リリエンベルグは『鮮度の良さ』が評判です。最初からのこだわりだったんでしょうか。

このお店ができたときに「他のお菓子屋さんとどういうところで差別化できるか」を考えました。

リリエンベルグはいい材料を使っているっていう自負があるんです。

北海道はルバーブやメロン、沖縄はマンゴー、パッション、喜界島はサトウキビ、四国は和三盆糖と。

他所はどうかっていうと他所もいい材料を使ってると思うんです。

私は18からこの歳までケーキ作りをやって経験はあるし、腕はあると思っています。

でも私と同じように努力して経験のある人っていっぱいいるわけです。

そうすると「いい材料を使っている」とか「いい腕をしている」というのは、大きな差別化にはならないんですね。

料理教室なんかでクッキーとかを教えて生徒さんが作りますけど、それをすぐにみんなで食べた時っていうのは絶対に美味しいんです。

本当は、作り立ては美味しいのに、それが二週間、三週間後にお客様の口に入ったら美味しくはなくなっちゃいます。

リリエンベルグでは「焼き菓子もジャムも日持ちはしない」という認識で仕事をしています。

だから、少しずつ少しずつ作っているんです。

作り立てを出すっていうのは30年経った今でも守り続けているんです。

 

〇今チャレンジしていることはどんなことでしょう。

川崎市のマイスターになっているとある程度の社会貢献を求められます。

東北の震災があったその年に、お菓子の講習会を定期的にやろうと働きかけて、横浜アリーナの被災した人たちを東京ガスに呼んで親子のお菓子教室を開きました。

それがきっかけでそのボランティア活動はいまも毎年一回やっています。

体が続く限りはやりたいと思っていますね。

それから今、NGBCって言うボランティア団体の活動のお手伝いもさせてもらっています。

櫛澤電機というオーブンの会社があるんですが、その会社の社長さんが「横溝さん。男も60過ぎたら金にならないような仕事を本気でやるんだよ」って言ってくれまして。

できるだけそういうことにも関われたらと思っていますね。

 


リリエンベルグお店

◆ ウイーン菓子工房 リリエンベルグ

  神奈川県川崎市麻生区麻生4-18-17

  TEL   044-966-7511

  営業時間 10:00~18:00

  休日   第1・3月曜日、毎週火曜日

  http://www.lilienberg.jp/